この夜を 2011.02.14 Mon | ライトな落書き

携帯から聞こえてくる不機嫌そうな声。
珍しいヤツから電話がかかってきたもんだ、と韮崎は思った。
あいつの方からかかってくることはめったに無い。
ふと机の横にあるカレンダーを見て得心がいった。
練のぶっきらぼうな言い方がまた韮崎の笑いを誘う。

「今夜は俺と会うだろ」
「何様だ、お前は」

しみったれた自宅なんかで会わねえぞ、と韮崎が別の場所を
指定した。ろくに返事もせずに電話は切れる。



先に部屋に来ていた練はすでに相当飲んだようで完全に
できあがっていた。よろけながら韮崎に近づき腕の中に
倒れこむ。
誠一、と小さく呟き目を閉じる。

「俺を呼び出しておいていい度胸だな。おい」



韮崎は練をガラスで仕切られたシャワールームまで
襟元を掴み引きずって行った。
頭から水を浴びせ、みぞおちに拳を入れると練の口から
固形物は全く見当たらない、水分ばかりが吐き出された。

「ひでえや･･･」
「きたねえな、ついでだ、全部脱げ」

濡れているため服が脱ぎにくいのか、酔っている練は
もどかしそうに韮崎を見上げた。




「練、濡れたまま部屋を歩くんじゃねえ」

韮崎の忠告など耳に入らない、というようにそのまま韮崎の
膝に乗った。色気も無い雑な仕草だが練らしいと韮崎は思う。
スーツが濡れてシミが広がるが韮崎は何も言わなかった。












「俺を･･･あんたが俺を･･･」

練は韮崎のシャツの襟元から手を差し入れその体温を指先に
感じる。口唇を韮崎の頬から口唇にゆっくりと滑らせた。

「あんたは俺を拾ったから･･･責任があるんだ。俺をまた拾え･･･」

練は襲ってくる眠気と戦いながら朦朧とした口調で言い続ける。
正気ならば絶対に口にはしないだろう台詞を。

「何度でも･･･俺を拾わないといけないんだ･･･」




情けないほどに今日という日が練にとっていまだ
忘れられない日だった。
もう大丈夫だと思っているのにやはりいつもより多目の
酒に溺れ、自分を見失う。
そして己をこの世に引き戻した男に電話をかける。




俺をもう殺して、という為に。

いいや違う

助けて　　　助けて

まだ苦しい　生きているのは悲しくて　つらい。
あんたの乱暴でも熱い手が俺を救ってくれる。
あの日のように
何度でも何度でも

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊



やっぱりワタクシの中では聖なる夜はいつまでも切ない日
であるという暗いイメージが（苦笑）
んでもって
ワタクシは韮様を文で書く時、どうしても『韮崎』表記に
したいの～。練だけが『誠一』って呼ぶ、っつーこの幸せ！
（作家本人様が誠一表記しているにもかかわらず）
ま、このへんはお気になさらずさらっと流してください！


この後虐められてバレンタインとかいうことなんて
忘れてしまえばいい！翌日には何もなかったような練ですよ。
１夜だけ情緒不安定がすごーい、みたいな･･･まあそのう･･･。